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最高の音を作り出す空間

心の健康への誘い-7 世界最高の音質評価のコンサートホール

20世紀はモノ作りの世紀だったと思います。洗濯機など生活に便利な機械をはじめとして音楽や映像などの聴覚や視覚で楽しむ機械も、驚くほど進化しました。
そのため、それらの根源にあった古典的な美や心地よさが忘れられてしまったような気がします。
今回は、世界最高のコンサートホールを紹介してその音の意義を考えてみましょう。

1960年代にアメリカのベラネクと言う音響建築学の専門家が世界中のコンサートホールを耳と測定器で調べかつ音楽家や多くの音楽関係者の意見を聞き、3つのコンサートホールに高い評価を与えました。

No.1はウィーンのムジークフェラインザールで学友会ホールとも言います。毎年正月にニューイヤーコンサートを行い日本にも中継されるので多くの方がご存じだと思います。
2番目はアムステルダムのコンセルトへボーです。
3番目はアメリカのボストンのシンフォニーホールです。
評価が行われたのはだいぶ昔のことですから、今評価し直すと良いコンサートホールがほかにもたくさん出てきそうですが、No.1のムジークフェラインザールの評価は変わらないでしょう。一番のムジークフェラインザールと2,3番の差は大きいのです。

1870年に作られたムジークフェラインザールは「シンフォニックな音楽、特にロマン派及び後期古典派の音楽には素晴らしいホール」とベラネクは彼の著書「音楽と音響と建築」で言っています。またカラヤンの「このホールの音は完全である。低音が豊かで、高音の弦にも良い」というコメントを同著で紹介しています。このホールではブラームスも自分の曲を指揮して演奏しています。
実際に聴いてみると、低音から高音まで響きが豊かで、高域まで自然にのびており弦の音は自然で非常に高い周波数でブロードに減衰します。低音は豊かなのに軽く、弦楽器のピチカートやユニゾンで響くブンという音も軽やかに響きます。
建築音響的にはシューボックススタイルという直方体になっており、客席は広葉樹の木のむき出しで布張りなどはありません。しかし明らかにその木の椅子からの反射音がリスナーに豊かなつつまれ感を届けているのです。
側壁の上方には明かり取りと思われる窓がありその窓が低音の圧力を外部に逃がして低音を軽くしています。
全周波数帯域がなめらかで刺激的な音は一切ありません。優しく音に包まれます。こんな素晴らしい音がこの世の中にあったのか、と思えるほど美しい音です。このホールの音のつつまれ感やなめらかで自然な音は、CDなど録音された再生音では聴いたことはありません。現地に赴いて体験して頂ければ、と思います。
日本の多くのオーディオ評論家はこのホールの音に感激しました。その感激で日本のオーディオ界をリードしたのでしょう。

私は仕事柄、評論家先生のご自宅や、雑誌社、コンサートホールで良い音をいくつか聴きました。CDなどデジタルオーディオの出現もあり、良い音は一般的になってきました。20世紀の科学技術は80%のレベルで人々を満足させる多くの機械を作ってきました。そのことは世界一とかNO1という言い方がされなくなった理由だと思います。しかし、100点満点の90点95点の表現力をもつものは、人生や世の中を変える力さえ持っていると思います。
そういった観点でもムジークフェラインザールの音はまだ存在意義が高いと思います。その音を聞くことで心に至福の時間をもたらすことを信じています。
誰にもすぐに聴きに行けるわけではありませんが、いろんなジャンルにおいて最高の物に接することは意義深いことだと思います。

<参考>
ベラネク,レオ・L.
1914年9月15日生まれ。コーネル大学卒業、ハーバード大学にてPh.D.を授与。また、ロチェスター工芸大学、ノースイースタン大学、コーネル大学、サフォーク大学、エマーソン大学より名誉博士号を授与。1947~1958年、ハーバード大学電気音響研究室長とMIT通信工学科助教授。1948年にBolt-Beranek-Newman(BBN)事務所創設、16年間にわたり最高経営責任者を務める。また、ドイツのミュンヘンにて、Muller-BBM、GmbHを創設する。1963~1983年にはボストン放送の社長、最高経営責任者。1980~1986年までWang研究所のディレクター、コンサルタント、1987年よりマサチューセッツ州・テクノロジー・インテグレーション社のディレクター、その後は音響コンサルタント及び経営者として現在に至っている。また、1987年までボストン交響楽団の名誉会長、1989~1994年の間、米芸術科学アカデミー会長を勤めた。数々の表彰を受けており、2003年には科学分野では全米最高の栄誉である、大統領勲章を受章した。専門は建築音響学と騒音制御

(2011/07/14 萩原 光男)

萩原光男
ライター情報:萩原 光男
JVCケンウッド㈱在職中は、ハイエンドからカーオーディオ・玩具までの音づくりに携わる。企画構想から国内外の市場訴求雑誌まで幅広く関わった。音質マイスターとして、バンダイ社の音楽玩具リトルジャマーの音チューニングも担当するなど、「よい音を諦めているジャンルに良い音」を目指して活躍。趣味は、音楽を聴くこと、ギターを演奏すること、自然や環境の中にもよい音を見つけること。現在は、中小企業診断士、産業カウンセラーとして活躍中。